■Chemist JOTARO 中崎城太郎の研究課題
Molecular Crystals and Liquid Crystals
vol. 306, pp.81-88 (1997).
Ground State Spin Multiplicity of Cation Diradicals Derived from Pyrroles Carrying Nitronyl Nitroxide
ニトロニルニトロキシドを有するピロールに由来する カチオンジラジカルの基底状態スピン多重度
Jotaro Nakazaki, Michio M. Matsushita, Akira Izuoka, and Tadashi Sugawara
Department of Pure and Applied Sciences, Graduate School of Arts and Sciences, The University of Tokyo
中崎城太郎、松下未知雄、泉岡 明、菅原 正
東京大学大学院総合文化研究科・広域科学専攻・相関基礎科学系
Pyrroles substituted by nitronyl nitroxide (1-3) have been prepared and the ground state multiplicity of their cation diradicals have been examined. The triplet was found to be the ground state for 2+・, 3+・, although the triplet signal was not observed for 1+・. The ground state spin multiplicity of these cation diradicals was rationalized in terms of the exchange interaction between unpaired electrons which reside SOMO and SOMO' of these species, respectively. A novel approach to polaronic high spin polymers obtained from 1,3-phenylene-bis(2'-1H-pyrrole) (4) is also mentioned.
導電性を示すことで知られるポリピロールに、側鎖として安定ラジカルを持たせることができれば、ドープによって導電性と磁性が共存する系となる。これまで側鎖に安定ラジカルを有するポリマーについて研究した例はあるが、ドープが可能なものはなかった。我々は安定ラジカル基をさまざまな置換様式で組み込んだピロール誘導体(1-3)を合成し、その酸化種における不対電子間の磁気的相互作用について検討したので報告する。また、πトポロジー制御部位としてメタフェニレンを持つ4を用い、ポーラロン型高スピンポリマーの構築を目指す試みについて述べる。
ニトロニルニトロキシド(NN)誘導体1-3の酸化種のESRスペクトルを低温剛性溶媒中で測定したところ、1+・については三重項種が検出されなかったのに対し、2+・、3+・については三重項種に由来するシグナルが観測された。この三重項シグナルの温度依存性から、2+・、3+・の基底状態が三重項であることが判明した。
1+・と2+・の違いは、その電子構造の特徴によって解釈できる。1+・ではピロールのカチオンラジカルとNNが、両者のsomoの節同士で連結されており、disjoint型のジラジカルとなっている。一方、2+・はnon-disjoint型のジラジカルとなっている。
1+・と違って3+・では基底三重項のカチオンジラジカルが観測されたことは、摂動的分子軌道法によって説明できる。ピロールのhomoとNNのsomoの節同士で連結された1の場合、二つの部分軌道間の相互作用は小さい。これに対し、3における、フェニルピロールのhomoとNNのnhomoとの間の相互作用は大きく、これらの部分軌道が、分子全体に広がった最高準位の軌道を形成する。ここでNNのsomoは、他の軌道と相互作用せず、そのままの位置を保つ。このような条件下では、HOMOからの酸化が起こり、ジラジカルが生成する。ここで生成したSOMO'とSOMOは軌道の係数を共有するので、両者の間に有効な交換相互作用が働く。
4をテトラヒドロフラン溶液中、ヨウ素で処理したところ、重合反応と同時にドープが起こり、いくつかの三重項ESRシグナルが観測された。SQUIDにより測定したドープ種の磁化曲線は、スピン多重度がおよそ1であることを示し、高スピン状態が実現していることが確認された。これはビピロールのカチオンラジカルがメタフェニレンのπトポロジーで連結されていることから期待された結果であるが、ドープ条件の改善により、さらに高いスピン多重度を観測することも可能となろう。
[↑有機磁性導体の概要]
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