


こういう状態で、果たして電解結晶化が可能であろうか、という問題がありました。ETBNは、通常のドナーに比べて溶媒に対する溶解度が高く、一般的な条件での電解では、何も得ることができませんでした。何も析出してこないで、ラジカルがどんどん減っていくという状態です。ところが、電解溶媒として1,1,1-トリクロロエタンを用い、このような条件で電解を行いましたところ、ようやくイオンラジカル塩が得られました。得られたイオンラジカル塩は、元素分析の結果から、このような2:1の組成となっていることが分かりました。さらに、電解溶媒に10%程度のエタノールやTHFを加え、0.8から1マイクロアンペアの電流で1週間、電解を行うという条件で、最もいい結晶が得られましたが、X線構造解析には至りませんでした。こうして単離されたイオンラジカル塩は、室温空気中でも比較的安定であり、普通に物性測定を行うことが可能であることが分かりました。このドナーラジカルの酸化種というのは、溶液中では非常に不安定なのですが、この場合、電極付近で酸化されると同時に析出して結晶中に閉じこめられ、さらに2:1塩となることによってカチオンラジカルが分散し、安定化されているのだと考えられます。つまり、良好な結晶性のおかげで、結晶環境という守られた場に存在することができるようになったというわけです。
