そこで、改めて、TTF-NNがなぜ基底状態一重項のカチオンジラジカルを与えたのかということを考え直してみました。このTTF-NNについて分子軌道計算を行ってみますと、これはtripletになってもいいのではないかという結果が出てきます。しかし、それは実験結果に合いません。そこで、このドナー部位とラジカル部位の間がねじれて、共役系が切れているのではないかと考えました。これは、この周辺が立体的に混み合っていることから、十分あり得ることではないかと考えられます。こうしてねじれてしまうと、交差共役系が成立しなくなりますので、交換相互作用が働かなくなると考えられます。さらに、ほとんど直交した場合、TTFのC-Sシグマ結合とラジカルのπ軌道とが重なりを持ってきて、ここにthrough-bondのスピン分極が働いた場合、主にN-O上に分布するNNラジカルと、主に硫黄原子上に分布するTTFのカチオンラジカルが反強磁性的に結ばれるのではないかと考えられます。これに対し、パラフェニレンが入った場合、このあたりの立体障害が緩和されるため、このようなねじれが生じなくなり、期待されるとおり基底状態三重項のカチオンジラジカルを与えるようになったのだと考えられます。